1.中国ではECでも値引き交渉をする
日本で値引き交渉といえば、店頭において、口頭で交渉するものが主流となっていますが、中国では、ECにおいても値引き交渉が当たり前のように行われています。自国ECはもちろん、越境ECでも同様です。
1-1.中国の越境EC利用時の値引き交渉経験は67.5%
経済産業省 商務情報政策局 情報経済課に「平成 25 年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る 基盤整備(電子商取引に関する市場調査) 報告書」(平成26年8月)によると、越境EC利用時の価格交渉経験を日本、米国、中国の3ヶ国で比較した結果として次のようになっています。
●越境EC利用時の価格交渉経験(2013年)
日本 15.7%
米国 44.8%
中国 67.5%
中国では7割近い割合になっており、多くの人が他国の販売サイトからものを購入する際には、値引き交渉を行っていることが分かります。
1-2値引き交渉の背景
経済産業省の「平成 26 年度我が国経済社会の情報化・サービス化に 係る基盤整備 (電子商取引に関する市場調査)報告書」によると、日本 EC 事業者からヒアリングした各国の消費行動分析のうち、中国においては「返品や値引き交渉が多い」ことが指摘されています。また、「中国人の消費行動として、高い商品を買うくらいなら同様の安い品やコピー商品(模倣品)でもよいと考える消費者も多い」といった内容もありました。このことから、中国人はとにかく安く手に入れたいという傾向があるようです。
2.中国ECにおける値引き交渉の実態
中国ECでは、具体的にどのように値引き交渉がされているのでしょうか。
徐向東氏の著書「中国人にネットで売る!: 2つの“ネット”の正しい使い方、つくり方」(東洋経済新報社)によると、CtoC(消費者間取引)のECサイト「淘宝網(タオバオ)」においては、消費者が個人店舗のオーナーとチャットで値引き交渉をしながらショッピングをしているそうです。著者によると、チャットの内容は7割が世間話だそうで、相手との信頼関係を構築したところで、やっと商売の話をはじめるとされています。
タオバオやT-mallでは専用のチャットソフトである「アリワンワン(阿里旺旺)」が使用されています。
中国人たちがチャットを利用する理由は、値引き交渉だけでなく、そもそも偽物ではないかという内容を確認する意味もあるといわれています。
3.値引き交渉への対応方法
3-1.値引き交渉に対応できない日本企業も
値引き交渉が当たり前に行われている中国ECにおいて、日本企業はどのように対応していけばいいでしょうか。
実際、こうした商習慣へ日本の大手ネット企業が対応しきれず、利用者を獲得できなかったことで惜しくも中国EC市場から撤退したという過去事例もあります。
3-2.値引き交渉へどう対応するか
日本企業が中国越境EC事業に乗り出すに当たって、中国人ユーザーによる値引き交渉や商品への活発な問い合わせにはどのように対応していくのがいいのでしょうか。基本的に中国語が堪能なスタッフをチャット対応人員として配置するということが思いつきますが、現実的にはなかなかむずかしいところがあると思われます。
大阪産業大学 原田良雄氏の論文「越境eコマースの現状と展望 EC 事業者の中国市場への取り組み」(大阪産業大学経営論集 第 15 巻 第 1 号/2013年10月)によると、中国の消費者は交渉力が強く、交渉頻度も多いとし、越境EC においては「あらかじめキャンペーンとして値引きを示す方式を用いるか、値引き範囲を決めておき営業的オペレータに任せる方法により、値引き交渉にかかるコスト低減を図ることが肝要となる」と述べられています。
つまり値引き交渉に個別対応するのは負担が大きいため、キャンペーン値引きなどの工夫により、値引きを効率的に行うということです。もし個別交渉が必要な場合は、ネイティブのオペレータに、あらかじめ決めた値引き範囲の中で、金額に応じた値引きを任せるという方法が考えられるようです。
4.まとめ
日本国内においても、越境ECの市場規模が高まってきている中、中国人がECサイトにおいて値引き交渉を当たり前のように行うことは、すでに広く知られています。それに対してどのように対応していくかが日本企業の越境ECにおける一つ大きな課題といえそうです。これから越境ECを始める日本企業の担当者は、準備段階で値引き交渉に関する対応・サポートも検討してみてはいかがでしょうか。