近年、中国越境ECでねらい目といわれる「化粧品」。かつての「爆買い」期からコロナ以前までは、訪日中国人たちが、日本の化粧品を好んで買い求めている姿をテレビニュースや街頭でよく見かけました。コロナ禍を経て、化粧品の売り上げはどう変化したのでしょうか。
今回は、中国の購買者にとって、日本の化粧品はなぜ好評なのか、そして、近年の化粧品をとりまく状況をご紹介します。また、中国越境ECで化粧品を販売する際の基礎知識や申請取得の流れ、化粧品などにまつわる規制緩和についても解説します。
1.日本の化粧品は中国人に大好評
1-1.中国人は越境ECで化粧品をよく買う
日本の化粧品は、中国人に人気であることは、よくメディアなどで耳にします。
株式会社アドウェイズが天猫国際と淘宝国際と京東国際の3つの越境ECサイトの売上を合計して推計した、中国越境ECでの2016年の日本メーカー商品のカテゴリ別売上シェア上位5位は、次の結果でした。
●中国越境EC市場商品カテゴリ
2016年の中国越境EC/日本メーカー商品のカテゴリ別売上シェア
第1位 美容関連 53.1%
第2位 マタニティ/ベビー 17.3%
第3位 食品/健康 10.4%
第4位 家庭用品 6.1%
第5位 デジタル製品/家電 4.4%
(アドウェイズ調べ:天猫国際+淘宝国際+京東国際の合計にて推計)
http://4c281b16296b2ab02a4e0b2e3f75446d.cdnext.stream.ne.jp/com/d3week2017/26B3.pdf
化粧品類はこの美容関連に入ります。
そして、同アドウェイズによる2017年の独身の日セールの天猫国際の人気商品カテゴリの結果は、次の通りでした。
●2017年「シングルデー(独身の日)」天猫国際人気商品カテゴリ
第1位 化粧品
第2位 食品/健康
第3位 マタニティ・ベビー
第4位 服・靴・バッグ
第5位 インテリア・車用品
(アドウェイズ調べ・2017年)
https://ecdatalab.nint.jp/2017/11/24/2017_w11/
このことから、化粧品は、越境ECにおいて中国人に特に人気であることがわかります。
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1-2.日本観光においてもよく購入されている
また、観光庁「訪日外国人消費動向調査(2019年)」では、「化粧品・香水」や「菓子類」、「医薬品」などが、日本への中国人観光客がよく買う商品の上位に挙がっています。
このことから、中国に住む人たちは越境ECにおいても、日本で観光する際にも、化粧品を買う意識は高いといえます。
1-3.日本の化粧品は高品質で信頼性が高い
なぜ中国の人たちにそれほどまでに日本の化粧品が愛されるのでしょうか。ニュースや話題においては、日本の製品の「高品質」「ブランド力」「信頼性の高さ」などが、中国におけるそれと比べて大きく勝っている点が挙げられています。
中国のメディアが発信していた内容によれば、中国人たちが好んで日本の化粧品を買うのは、「ブランドや品種が豊富で選ぶ幅が広い」ことや、「医学研究による開発を経て、生産も厳格な基準のもとで行われている」こと、「成分は天然に近く、安心安全」であることなどが理由として挙げられるといいます。
中国では偽物が横行していることが多く、信頼の置ける商品を手に入れにくい状況にあります。そのような環境下では、日本の化粧品は中国人にとって非常に魅力的に映ると考えられます。
2.爆買い収束後は「円高元安」で安い化粧品に注目が集まる
ところで、日本の化粧品は、かつて「爆買い」といわれ、訪日中国人たちの人気を集めました。その爆買いが過ぎ去った後、再度、注目を集めたのをご存知でしょうか。
それは「円高元安」となったときでした。訪日中国人にとって安価に手に入る化粧品が、格好のターゲットとなったのです。
「円高元安」のとき、訪日中国人が日本で元を日本円に両替したときに目減りします。
そのため一般的に「円高元安」時には、高級ブランド品など、高価なものについては気軽に購入できなくなり、日本でしか手に入らないものに目が行く傾向が出てきます。一方、安価に手に入る化粧品、トイレタリー、医療品などは「複数商品の少数買い」の傾向が出てくるといわれます。そうなると、自分のために買うのがメインとなり、友達や家族にはお土産程度に買うのが一般的となるようです。
そのため、円高元安のときに安価に手に入りやすい化粧品は再注目され、幅広く日本で購入された時期があったのです。
3コロナ禍で中国越境ECの化粧品売上はどうなった?
新型コロナウイルス感染拡大を受け、2020年は世界的に大きく小売が変化しました。
その中で、中国国内における化粧品の売り上げはどう変化したのでしょうか?
中国の国家統計局が公表している、2020年5月の小売総額は、前年同月比2.8%減の3兆2,000億元でしたが、化粧品の小売総額は12.9%増の270億元と好調となっています。
さらに、長城証券という中国企業の調査では、中国EC最大手であるアリババグループの5月の流通取引総額は次の結果となっていました。
●スキンケアアイテム
前年同月比25.6%増/140億元
●メイクアイテム
前年同月比29.8%増/55億5,000万元
もはやコロナの影響は中国ECでは減少どころか増加しているという結果でした。この化粧品の中には、海外ブランド製品も多く含まれています。
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4.中国越境ECで化粧品販売する際の基礎知識
コロナ禍で中国では、より一層、注目を集めている化粧品。中国越境ECに取り組み、販路を拡大したいと考える事業者も多いのではないでしょうか。
そこで、中国越境ECで化粧品販売を始める際に、知っておくべき前提の知識を解説します。
4-1.中国の法律に従う必要がある
中国に化粧品を輸出する場合、中華人民共和国化粧品監督管理条例の規定によると、化粧品は、「特殊化粧品」と「一般化粧品」に分類され、それぞれを中国が輸入する際、許可や申請が必要となっています。
特殊化粧品とは、スキンケア化粧品でいえばシミ取り用、美白用、日焼け止め、新たな効果のある化粧品などが該当します。一般化粧品は特殊化粧品以外のものを指します。
特殊化粧品を輸入する際は特殊化粧品許可証の取得が必要となり、一般化粧品を輸入する際は一般化粧品届出手続が必要です。その上で、税関の通関検査を受ける必要があります。
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4-2.化粧品のラベルの表記ルールを守る
中国で販売する化粧品のラベルには、ルールに基づいた表示が求められます。例えば「製品の名称」「生産企業、輸入業者の名称、住所」「特殊化粧品許可証番号または一般化粧品届出証番号」「成分」「内容量」「使用期限、使用方法、および必要な注意喚起」「法律法規、および強制国家標準の規定による記載すべきその他の内容」などです。
また、これらの表示は、中国語でなければなりません。
5.化粧品のNMPA申請と販売開始までの流れ
先ほど、化粧品について、許可や申請が必要になる旨をお伝えしましたが、その手続方法について簡単にご紹介します。
中国に初めて輸入される特殊化粧品は、その生産者および代理人が、中国の国家薬品監督管理局(NMPA/National Medical Products Administration)という機関に特殊化粧品許可証を申請・取得します。中国に輸入される一般化粧品については、その生産者および代理人が、輸入非特殊用途化粧品の届出を実施する必要があります。
●NMPA申請・届出の流れ
(1)成分チェックなどを行う
申請を行う前に、中国へと輸出可能な成分かどうかなどを申請前にチェックする必要があります。専門企業に依頼する方法もあります。
(2)中国内登記の責任企業と契約を行い、登録を行う
NMPAへ申請を行います。まず在華責任企業の登録を行います。責任企業は、中国国内で登記された法人のことです。生産者である自社は申請人となりますが、実際の申請を責任企業に委託する必要があります。また、書類をそろえて「化粧品行政許可システム」からオンラインで申請を行います。受理されればユーザー名、パスワードが発行されます。
(3)必要な書類を準備し、製品サンプルを発送する
システム上でオンライン申告を始めます。規定の申請書や書類とともに、製品サンプルとともにNMPAへ送付し、製品試験を行ってもらいます。試験は化粧品によって異なりますが、1か月から3か月はかかるといわれます。
(4)NMPAの審査と輸出・通関
一般化粧品は登録申請するのみで、輸出と通関に進みます。また、特殊化粧品は行政審査の後、許可書を取得した後で輸出と通関が可能となります。これにより中国越境ECでの販売が可能になります。
6.中国の越境ECの化粧品に関わる規制緩和
中国の越境ECにおいては、化粧品に関わる規制緩和がされています。これにより、現状は比較的、化粧品の中国越境ECに取り組みやすくなっているといえます。規制緩和のトピックスをいくつかご紹介します。
6-1.化粧品の輸入許可手続きは現状不要
中国では、「越境EC小売輸入商品リスト」、いわゆるポジティブリストが定められており、そのリストに記載の商品のみ輸入が可能です。
これらのうち、中国では新規輸入品に対して通関証明書の提出を義務付けています。また、従来、化粧品は初回輸入許可手続きが必要でしたが、2018年11月に新しいリストが発表された際に、化粧品等に義務付けられていた一部条件が削除され、化粧品についての初回輸入許可手続きが免除されています。今後、制度変更のこともあるため、最新情報は常に確認しておきたいところです。
6-2.越境EC可能エリアの拡大
越境ECが可能な中国内のエリアは、中国政府により限定されています。2015年から浙江省杭州市で初めて「越境EC(電子商取引)総合試験区」として許可が下り、その後、徐々にエリアが拡大されています。2022年2月8日には、総合試験区を全国27カ所のエリアが加わりました。これより、総合試験区の設置が認可された都市は計132都市・地域となりました。
6-3.越境EC商品の課税免税の金額枠拡大
2019年1月に施行された中国越境ECの新制度では、従来、越境EC商品に付与されていた課税減免の金額枠が拡大されました。
もともと、越境EC税制では、越境EC商品は、輸入関税と輸入増値税、消費税の適用対象でありつつ、一定の金額の枠内で、輸入関税の税率を0%、増値税・消費税は70%として総合課税を行う課税減免の対象となっています。この対象となる金額枠は、従来は1回の取引金額が2,000元以内で、個人の年間取引金額が合計2万元以内という限度が設けられていたところ、新制度では1回の取引金額が5,000元以内、かつ、個人の年間取引金額合計2万6,000元以内と拡大されました。
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6-4.越境ECで購入した商品の返品手続きが簡易化
2020年3月に、越境ECで購入した商品の返品手続きが簡易化されました。消費者が商品を購入した後、一定期間内であれば、販売側の指定通りに商品を返送するだけでよくなり、消費者による税関への返品申請が不要になりました。このことから、消費者の利便性が高まった側面があります。
7.まとめ
「爆買い終焉」「円高元安」、そしてコロナ感染拡大の影響によって、中国越境ECにおける化粧品市場には変化が起きていますが、いずれの時期においても日本の化粧品人気は途絶えてはいないようです。
これは、まさに日本の化粧品の品質の高さや信頼性が為せるわざであると考えられます。今後、アフターコロナを迎えるにあたり、中国人たちにどのような購買変化が起こるのか、中国越境ECにおける化粧品市場の動向を追っていきましょう。
また、化粧品は中国越境ECに取り組むのには格好の商品ジャンルといえます。一方で、注意点や申請手続きなどの必要性もあります。化粧品をはじめ、中国越境ECは規制緩和が行われているため、今がチャンスといえます。ぜひ取り組みを開始しましょう。