1.越境ECとは?
1-1.越境ECとは
越境ECとは、インターネットの通信販売サイトを通じて行う国際的な電子商取引のことです。海外の事業者が国外にEC店舗を構えて集客し、そこで自社の商品を、ネットを介して販売し、主に自国から国境をまたいで商品を配送します。例えば、中国に在住している人が、ECサイトで購入したときに、日本から商品が発送されるということです。あらかじめ現地の倉庫にストックしておき、注文が入り次第、そこから発送されることもあります。いずれにしても国境をまたいでEC販売を行うことから「越境EC」と呼ばれています。
1-2.日本・米国・中国の3か国間における越境電子商取引の市場規模
越境ECの世界の市場規模は年々伸びています。国別にはどうなっているのでしょうか。
日本・米国・中国の3ヶ国間における越境電子商取引の市場規模を確認しておきましょう。
2020年の、日本・米国・中国の3ヶ国間における越境ECの市場規模は次のようになっています。
国 | 越境EC購入額 | 伸び率 |
日本 |
3,416億円 |
7.6% |
米国 |
1兆7,108億円 |
9.9% |
中国 |
4兆2,617億円 |
16.3% |
出典:経済産業省「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」
中国国内のEC市場規模は約30兆円と言われており、その内訳を見てみると、中国消費者における日本事業者からの越境EC購入額は、1兆9,499億円で、前年比17.8%増、米国事業者からの越境EC購入額は、2兆3,119億円で、前年比15.1%増でした。日本事業者にとって、中国越境ECは可能性のある市場と言えます。
2.越境ECのメリット・デメリット
越境ECに取り組むことは、メリットもデメリットもあります。それぞれ確認しておきましょう。
2-1.メリット
・市場が拡大し続けており巨大なマーケットへ進出できる
先述の通り、越境ECは年々、市場が拡大し続けており、幅広いターゲットに販売できるのは、大きなメリットといえます。少子高齢化となっており、縮小傾向にある日本市場を背景に、越境ECは大きな希望となり得ます。
・越境ECなら実店舗よりも低コストで実現できる
海外で商品を販売するとなると、専門店を現地に用意するなどすれば、コストは計り知れません。そうした中、インターネットを活用することで販売が実現するというのは手軽かつコストも大幅削減できることから、ビジネスに関するリスクも軽減されます。
・国内では越境ECサービスが充実している
近年、日本国内では、すぐに越境ECが始められるサービスが充実してきています。またサポートもあるため、そうしたサービスを利用することで、手軽かつ迅速にリスク少なく始めることができます。
2-2.デメリット
・言語の壁がある
越境ECでは、多くの場合、言語の壁が問題となります。ECでの販売において接客やコミュニケーションの際や、商品説明や表示などに翻訳対応が必要になります。外国語の話せる人員を雇ったり、教育したり、翻訳サービスの導入など様々な対策が求められます。
・決済方法の整備
ECで決済する手段は、国によって異なるため、出店先の国に合わせる必要があります。多くのケースではクレジットカードが使えますが、異なる場合もあります。中国ではAlipayやWeChatPayなどが主流です。各国で多く利用されている決済手段を整備することで、購買ハードルを下げ、売り上げにつながります。
・物流の最適化
越境ECの物流は、日本よりも整備されておらず、配送業者選定や最適な配送ルート選択など最適化を行うのが困難なところがあります。配送業者によっては、日本よりも乱雑に扱ったり、配送品紛失などのトラブルも想定しなければなりません。また、日本から発送するのか、それとも現地の倉庫に一度ストックしておくのかなど様々な方法があります。いずれにしても現地の専門知識が必要になるでしょう。
・法令遵守
対象国の法令に準ずる必要があります。食品表示や関税、輸入規制などあらゆる法令を遵守しながらECを展開しなければなりません。申請や検査が必要になることもあります。手間がかかると共に、ここでも専門的な知識が求められます。
【参考】
3.越境ECの日本企業の成功事例
すでに多数の日本企業が越境ECで成功しています。中でも有名な企業の事例をみていきましょう。
3-1.トーキョーオタクモード
「Tokyo Otaku Mode Inc.」は、アメリカ合衆国のオレゴン州ポートランドに本社を置くEコマース事業などを行う会社で、日本のアニメや漫画やゲームなどのサブカルチャーを海外向けに販売・情報発信しています。この会社の「Tokyo Otaku Mode Shop」は、世界100ヵ国以上に物品を販売しており、千葉県とポートランドに倉庫を構えて海外に向けて配送しています。
越境ECサイトの先駆者として知られており、欧米の購入者層が多くなっています。公式サイトによると、Tokyo Otaku Mode Shopのねらいは、海外で出回りやすい海賊版や模造品などへの対策として、ライセンサーやメーカーの許諾を得た正規商品を正規のルートで海外消費者へ販売することを通して、イリーガルな業者の存在意義を減らす一助となるように活動していると述べています。
また、実際ECサイトの日本語の翻訳は、すべて外国人で構成され、翻訳を行っているとのことです。
3-2.A-JANAIKA JAPAN
「ええじゃないかジャパン」は、日本の伝統工芸品など、質の高い日本の商品を販売する越境越境ECサイトを運営しています。サイト自体は、英語、フランス語、中国語、アラビア語などに対応しています。また、通貨も多通貨に対応しているなど、スタッフの努力が結集されています。きめ細やかなカスタマーサービスにも定評があります。
3-3.ファーストリテイリング「ユニクロ」
アパレルブランド「ユニクロ」を展開する、ファーストリテイリングは、2009年4月からタオバオモールへの出店と自社のECサイト開設を行い、越境ECを始めました。運用は他社を活用し、受発注対応や商品在庫の管理などを行っています。また中国会員に向けたメールマガジン配信なども実施しています。
当初は、そのターゲティングとブランディングに定評があり、その後は、独身の日、つまり中国EC全体が値下げセールを行う日でも 2015年には1日限定セールで6億元、約100億円を売り上げています。
成功の背景には、ターゲティングやブランディングはもちろん、タイミングのいい割引キャンペーンの実施や、地域に密着した施策、SNSをフル活用するなどの取り組みをしています。
4.越境ECの業界成功事例と状況
近年、海外では日本酒の需要が高まっており、日本からは多くの日本酒が輸出されています。また、かつての「爆買い」期には訪日中国人たちが、日本の化粧品を好んで買い求める姿をニュース等で目にしたことがあるのではないでしょうか?ここでは越境ECの業界成功事例と状況についてみていきましょう。
4-1.日本酒販売事例
・日本酒の魅力を動画で発信しながら販売した事例
ある日本の企業は、中国における日本酒の販売に際して中国のSNSを活用し、酒蔵である自社の歴史・伝統を伝えつつ、中国の消費者の心に響くPR動画を制作して公開しました。日本酒は、海外ではその製造方法はあまり知られていません。その日本が誇る伝統文化を伝えることは、中国での飲酒体験をより良きものにします。
日本酒の魅力を背景・ストーリーを通じて伝えることで、効果的なマーケティングとなりました。
・日本酒越境ECサイトを制作した事例
ある日本の企業は、コロナ禍を受け打撃を受けた国内の日本酒の酒造会社5社と共に、海外向け日本酒越境ECサイトを構築し、そこで酒造の日本酒の販売をスタートしました。まずはアジア方面の各国への販売からスタートし、今後も拡大していく予定です。
ECサイトでは、各酒造会社の、日本酒づくりへの思いや背景を伝えながら、おすすめ商品を紹介しています。また、直接酒造から発送することで、産地直送という安心感と新鮮さという体験を消費者に提供しています。
【参考】
4-2.化粧品販売事例
日本の化粧品は、中国人に人気であることは、よくメディアなどで耳にします。
株式会社アドウェイズが天猫国際と淘宝国際と京東国際の3つの越境ECサイトの売上を合計して推計した、中国越境ECでの2016年の日本メーカー商品のカテゴリ別売上シェア上位5位は、次の結果でした。
●中国越境EC市場商品カテゴリ
2016年の中国越境EC/日本メーカー商品のカテゴリ別売上シェア
第1位 美容関連 53.1%
第2位 マタニティ/ベビー 17.3%
第3位 食品/健康 10.4%
第4位 家庭用品 6.1%
第5位 デジタル製品/家電 4.4%
(アドウェイズ調べ:天猫国際+淘宝国際+京東国際の合計にて推計)
http://4c281b16296b2ab02a4e0b2e3f75446d.cdnext.stream.ne.jp/com/d3week2017/26B3.pdf
化粧品類はこの美容関連に入ります。
世界的な新型コロナウイルス感染拡大を受け、2020年は大きく小売市場が変化しましたが、中国の国家統計局が公表している、2020年5月の小売総額は、前年同月比2.8%減の3兆2,000億元でしたが、化粧品の小売総額は12.9%増の270億元と好調となっています。
化粧品小売市場については、もはや中国ではコロナの影響で減少どころか増加しており、この化粧品の中には海外ブランド製品も多く含まれています。化粧品小売市場もまた、中国越境ECにおいて、有力なマーケットであるといえるでしょう。
【参考】
5.越境ECで活かせる日本企業の強み
日本企業が越境ECに取り組む場合、強みを活かすことで、より発展させていくことができるはずです。そこで成功事例から、日本企業の強みをピックアップしてみました。
5-1.日本発という信頼・ブランディング
日本企業が越境ECを展開しているということは、それだけで海外の住人にとって価値があります。海外では手に入らない商品はもちろん、海外では海賊品や偽物の判別がむずかしい中で、しっかりと日本企業のお墨付きで販売することができるのは、大きな強みになります。その信頼性をいかに打ち出し、そしてブランディングを効果的に実施していくことがポイントになりそうです。
5-2.丁寧なカスタマーサービス
おもてなしの日本と言われるように、日本のきめ細やかで丁寧なカスタマーサービスは、越境ECでも存分に生かすことが欠かせません。それにはサイトを多言語対応する、ネイティブスピーカーによるカスタマー対応の体制づくりが大事になります。
5-3.ターゲティング・地域に根付いた戦略
「誰に売るのか」ということをしっかりと見据えているからこそ成功した事例が数多く見られます。ターゲティングが明確になされ、地域まで絞り込まれた戦略は、日本のマーケッターが日本で培った知識・経験・スキルを応用できるといわれています。
6.中国越境ECを始める2パターン
越境ECを始めるときには、日本企業の強みを活かすことで成功に近づくことができます。今回は、中国越境ECに絞った内容で、越境ECの始め方を解説したいと思います。
中国越境ECを行う方法は大きく分けて2つのパターンがあります。自社サイトを構築する方法か、中国ECモールに出店する方法です。それぞれ確認していきましょう。
●自社サイトを構築
自社が独自に越境ECに対応したECサイトを立ち上げる方法です。立ち上げるのは日本国内、もしくは販売先の国や地域のどちらかとなります。現地で使われている言語でサイト内のテキストを記述します。決済も現地に即した方法を導入し、国際配送を可能にします。サイト構築後は、運営代行サービスを利用することもできます。
サイト構築の大きなメリットは、ECサイトのデザインの自由度が高く、ブランドの世界観を出しやすいことです。認知度アップが求められる海外において、非常に有効といえます。一方で、サイト構築では、サーバの設置やレンタル、サイトのデザイン、構成、プログラミング、アップなど一連の流れすべてを自社で実施するため、コストや時間がかかります。
●中国ECモールに出店
モール出店とは、現地にすでに構築されている越境EC向けのECモールに出店することをいいます。ECモールとは日本でいう楽天市場やAmazonのような存在で、越境ECが行えるプラットフォームを指します。
例えば、中国の越境ECモールには、天猫国際(Tmall Global)や京東全球購(JD Worldwide)があります。また、日本国内でも越境ECが行えるモールが存在します。例えばAmazon Global、ebayなどが挙げられ、どちらも問い合わせなどをしたとき、日本語でのサポートが受けられるので利便性が高いでしょう。
モール出店の場合、サーバの設置やサイト構築といったコストや人員確保が不要となりますので、導入コストは比較的抑えられます。出店先の越境ECモールが、ある程度、ユーザー数を抱えている場合には、アクセスもある程度は見込めるでしょう。一方で、サイト構築と比べて、デザインなどの制約が大きいため、ブランディングがむずかしいといわれています。オリジナル性を出す努力と工夫が求められます。
7.中国越境ECにおける人気のプラットフォーム
中国越境ECを実施する際に、よく出店される人気のプラットフォームをご紹介します。
iiMedia Researchが発表したレポート「2021年世界および中国の越境EC運用データ典型企業分析研究報告」によれば、2021 年の越境 EC 輸入小売のプラットフォーム別シェアの予測値は、「天猫国際(Tmall Global)」で26.7%、次いで「考拉海購(コアラ / Kaola)」で22.4%、次いで「京東国際(JD Worldwide)」で11.3%、「蘇寧国際」で11.2%の順となっています。
ジェトロがAlibaba Japan など公開情報をもとに整理・作成した情報によれば、シェア上位を占める3サイトは次の特徴があります。
【関連情報】
7-1.天猫国際(Tmall Global)
中国最大規模の越境ECプラットフォームであり、他企業から商品を仕入れて一般消費者に販売するB2B2C型と、企業が自ら出店するモデルを組み合わせた販売手法を提供しています。利用ユーザーは、安全と品質にこだわる中間所得層や、ライフスタイルやトレンドにこだわる30歳以下の若い消費者が中心です。
【関連情報】
7-2.考拉海購(コアラ / Kaola)
越境EC保税倉庫面積は最大規模で、中国各地に保税倉庫を保有しており、 配送の速さが特徴で、企業が自ら出店する直営モデルに強みがあります。高い購買力を持つ女性のミドルクラス層に強く、約80%が女性客であり、特に19〜35歳の購買力が高いミドルクラスが多いとされています。
【関連情報】
7-3.京東国際(JD Worldwide)
独自の物流ネットワークによる配送スピードの速さをほこり、他の企業から商品を仕入れて一般消費者に販売するB2B2C型と出店形式の両方を提供。正規品保証による商品の信頼性の高さとデジタル製品・家電に強みのある特長があります。
【関連情報】
8.売り上げを大きくあげるプロモーション事例
中国国内でのEC市場で成功するには、SNSをはじめとしたインターネット利用が爆発的に多いという特徴や市場、国民的な観点などの背景を理解することが大切です。中国プロモーションの事例の中でも、うまく実践しているといえる事例を見ていきましょう。
8-1.中国への「越境EC」プロモーション事例
2016年4月に中国政府が税制上の優遇を行ったことにより、中国における日本の越境ECサイトでは、日本国内で買うよりも安く買えるようになっています。
こうした今チャンスというべき中国越境ECへ参入するには、やはり準備が必要になります。しかし、自社サイトをただ中国向けに作るといった場合、集客に時間がかかるため、中国の人気ECモールに出店するのが主流になっています。日本でいう楽天やヤフーに出店するのと同じ方法です。
もし日本では売れているが、中国で売れなかったらどうしよう、という不安がある場合、まずは「出品」だけをする方法を取る企業もあります。店舗を出すのではなく、単品で出品し、まずは売れ具合を見ているのです。
このような「モール出店」「出品」は慎重なプロモーション事例ではありますが、ポイントは、この「中国で売れる商品を実際に売ってみてリサーチする」ところにあります。
8-2.中国人「インバウンド」向けプロモーション事例
越境ECのほうが実店舗よりも安く買えることもあり、中国人の日本での「爆買い」傾向が低迷しています。よって、実店舗に誘導することは急務といえます。このような中、いかにインバウンドの購買率を高めるかを考えたときに、有効なのが「サンプリング」の方法です。
中国人向けWebサイトを制作し、今中国で人気のSNS「Weibo(微博・ウェイボー)」上の口コミ拡散などを利用して、商品・ブランド認知を図ります。そして商品のサンプルを郵送し、実際に使ってもらうことで、好印象が得られたユーザーに「この商品、日本のどこで売ってるの?」「今度日本に行ったときに買おう」と思わせるという方法です。
爆買い傾向が減少する中、口コミ拡散による実店舗誘導は、欠かせない施策といえます。
【参考】
9.まとめ
越境ECで成功するためには、さまざまな要素が求められます。日本企業ならではの強みを活かしたマーケティング戦略を練ることで、さらに成功に近づけるのではないでしょうか。
【参考】