1. 訪日中国人を取り巻く環境の変化と対応策
「訪日中国人の「爆買い終息」は本当か?環境の変化を正確にとらえよう」の記事でもご説明した通り、「元ベース(元建て)」で見ると、決して訪日中国人たちの日本での消費金額は落ち込んではいません。
しかし、環境が変化していることは事実です。訪日中国人たちへの売り上げ低迷に見舞われる日本企業は今、どのような対策を取ればいいのでしょうか。大切なのは、現状を正確に理解し、それに応じて的確な対策を講じることです。
まずは訪日中国人たちを取り巻く環境の変化を3つ見ていきましょう。そして、とるべき対応策をご紹介します。
1-1.「円安→円高」による買い物の傾向の変化
まずは為替による影響です。円高時と円安時では、当然、買い物の傾向は変わります。
ブランドものなどの高級品と、日用品・化粧品などの消耗品の2種類に分けて、その傾向の変化をみていきます。
【高級品】
2015年、超円安の時期、つまり日本での買い物が安い時期には、欧米ブランド品を含め、あらゆる高級品は中国国内で購入するよりもお得感があり、百貨店や宝飾店など高級品を扱う店舗は大盛況でした。しかし、円高になれば割高になるため、当然買わなくなります。買うものは、日本でしか手に入らない限定的な商品に限られます。
【消耗品】
化粧品、医薬品、トイレタリー健康食品、酒類、菓子類、生活家電などの消耗品は、円安の時期は安くてお得であるため、自分だけでなく友人・家族の分にも買うようになります。また、転売目的の購入も増えます。これにより、単品商品の箱買い、いわゆる「爆買い」が起こりました。
円高になると、日本でしか買えないもの、もしくは、中国国内では関税が高く、日本で買うほうが安いものを買うようになります。爆買い終息といわれた2016年も、ドラッグストアを中心に化粧品や健康食品などの売上は衰えるところを知りませんでした。
とはいえ円高時期は、自分で使う分だけ購入し、友人・家族にはお土産程度の購入になっています。転売目的の購入も円高になると薄利となるため、少なくなります。そのため、箱買い、いわゆる爆買いがなくなります。中国人消費者は自分自身が使うための必要最小限の購入をするようになりました。これが「爆買い終息」といわれている一番の要因と考えられます。
●考えられる対応策
円高の今、注目すべきはやはり消耗品です。購入者は「複数商品の少数買い」に転じており、ニーズが多様化しています。店舗はこれに合わせた施策が必要です。
例えば、一つの棚に単一商品を多く並べるのではなく、コンビニエンスストアのように、生活に合わせた陳列を意識するなどの配慮が求められます。
1-2. 帰国時の課税強化
2016年4月から関税率がアップし、空港での手荷物検査が強化されています。訪日中国人観光客は、手荷物検査を回避したいがために、帰国時の手荷物を少なくする傾向が出てきています。
●考えられる対応策
(1)スーツケースに収まる商品を強化する
スーツケース1個では手荷物検査の可能性が低いですが、スーツケース2個ではやや可能性が高くなり、スーツケース2個+ダンボールになると、かなり可能性が高くなるといわれています。よって、売る側は、スーツケースに収まる商品を強化することが一つの対策です。
(2)サイズの大きなものは中国への配送サービスを用意
箱買いなどの爆買いニーズも取りこぼさないよう、中国への配送サービスを用意することも大事です。
1-3. 海外でのカードによる現金引き出し制限
中国人が出国時に持ち出せるお金には限りがある上に、2016年1月より、カードによる海外での現金引き出し額に制限が付けられました。
【中国の現金持ち出し制限】
中国からの出国時の現金持ち出しは、現地通貨は「20,000元まで*1*2」可、外貨の持ち出しは「1人当たり5,000ドル以下の外貨持ち出しは申告が不要(*)」となっています。
*1JTBの外貨両替「通貨の持込み・持出し制限」
https://exchange.jtb.co.jp/Gaika/Info/Limit.aspx
*2海外安全ホームページ: 安全対策基礎データ
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcsafetymeasure.asp?id=009
*3JETROより
https://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/trade_04.html
【海外での銀聯カードによる現金引き出し制限】
2016年1月から、海外での銀聯カードによる現金引き出し制限に年間上限が追加されました。カード1 枚当たり 1 年間で 10 万元までです。(*4)しかし、カード決済については本規制の対象外となっているため、これは現金引き出しのみの制限です。
この現金引き出し制限で、「代理購入事業」を行っている在日中国人たちにも影響が及んでいます。代理購入事業とは、日本でしか買えないもの、日本で買ったほうが安いものなどを中国本土の人の代わりに購入し、中国へ送ってあげるというものです。
しかし、たいていの場合、中国本土の消費者からは「Alipay(アリペイ)」や「WeChatペイ」などのオンライン決済・モバイル決済サービスを通じて商品代金を受け取り、中国口座に売り上げが入金されます。しかし、その売り上げを口座から引き出そうとしても、日本では年間で約150万円までしか引き出せないため、年間に販売できる額にも上限が生まれてしまっています。
仕入れ時も、元で決済できる店や、デビットカードやモバイル決済などの現金以外の決済手段を取るようになっています。
また、一度中国へ帰り、銀聯カードを複数作るために口座を何個も新たに作るという策も取られているようです。
*4やまぎんアジアニュース
https://www.yamaguchibank.co.jp/portal/special/asia/2015/qingdao_04.pdf
●考えられる対応策
複数口座を作る抜け道も、どこかで塞がれる可能性があるため、日本企業は「Alipay決済」や「WeChatペイ決済」など、中国預金口座から直接購入できる決済サービスを用意するのがいいでしょう。
また、決済サービスを導入したとしても、「利用できる」ことを広く周知しなければ集客できません。決済がなかったがために一度離れた顧客を取り戻すことはできないのです。
広く周知するには、Weibo(微博・ウェイボー)やWeChat(微信・ウィーチャット)などのSNSを利用し、口コミ拡散を狙うことが重要です。