1. 円高なのにも関わらず増え続ける訪日中国人
まず注目したいのが、「爆買い終息」といわれていても、訪日中国人たちそのものの数が、年々増加の一途をたどっていることです。2016年は1~9月で500万人を突破し、10年で10倍の伸びを見せています。
訪日中国人数の推移
多くの報道では「爆買い終息」の原因は、主に「円高元安」によるものだとされています。しかし、2016年から現在にかけては、爆買いといわれた2015年当時の円安の時期と比べて確かに円高ではあるものの、訪日中国人は増えています。
つまり、為替と訪日観光客は比例しないのです。
訪日中国人数と中国元為替の推移
2. 元ベースでは消費金額はそれほど減っていない
「爆買い終息」とは必ずしも言いきれない理由は、これだけではありません。世間では、訪日外国人たちの日本での消費金額が減っているといわれていますが、これは、「円」ベースで見たときの結果です。実は、「元」ベースで見た場合、消費金額はそれほど減ってはいないのです。
これについて詳しく解説します。
確かに、爆買いといわれた2015年の「1元20円」という円安の時期と比較すると、2016年の「1元15.5円」という円高の時期になると、一人当たり消費金額は下がっています。つまり、円安だと消費金額が増え、円高だと消費金額が減っているのです。しかし、これは円ベースで見たときの結果です。
訪日中国人消費金額/人と中国元為替の推移
▲円ベース
一方、元ベースでの訪日中平均消費額を見てみると、2015年と2016年の消費金額には、大きな差は生まれていません。2015年1~3月の1人当たりの訪日中国人消費金額(元)は13,176元、2016年4~6月は11,061元です。
むしろ、爆買いの2015年よりも、今よりも円高だった2010年~2012年のほうが、消費金額は高いという事実もあるのです。
これによって分かることは、元建てにしてみると、円高であっても訪日中国人たちが買い物する額は減らないということです。つまり、為替レートによって、円消費金額が下がっているだけなのです。
訪日中国人消費金額/人(元)と中国元為替の推移
▲元ベース
しかし、訪日中国人たちの消費額は、年々、緩やかに下がってはいます。その理由は、「ビザ発給要件緩和」により、訪日中国人の層が変化し、富裕層から中間層へと広がっていっていることが大きな要因として考えられます。
とはいえ、2015年の「爆買い」の時期は円安幅が特に大きかったため、異常に消費額が上がったことで、話題に上ったのだと考えられます。中長期的に見れば、円高の今も、消費額は右肩上がりに変わりないのです。
3. 環境変化は事実。対応策が必要に
「爆買い終息」は、必ずしもそうとは言い切れないことが分かりました。しかし、今現在、訪日中国人たちを取り巻く環境が大きく変化していることは事実です。どのような環境の変化が起こっているのかを確認しておきましょう。
3-1. 円高の影響による買う物、買い方の変化
2015年の円安の時期と比べて、今現在は円高です。当然、買い物の傾向は変わり、高級品よりも消耗品の消費が多くなっています。また、これまで転売目的や家族・友人たちの土産目的で購入されていた大量の消耗品も、自分用になるため、必要最低限の買い物になっています。これが、箱買いなどの爆買いが終息したといわれる一番の要因と考えられます。
しかし、円高でも日本で買ったほうが安いものや、日本でしか手に入らないものは、引き続き売れています。
3-2. 帰国時の課税強化
2016年4月からの関税率アップ、空港での手荷物検査強化により、訪日中国人観光客は、手荷物検査を回避したいがために、手荷物を少なくする傾向があります。
3-3. 海外での現金引き出し制限強化
中国から出国時の現金持ち出しには、もともと制限があります。その上、2016年1月からは、海外での銀聯カードによる現金引き出し制限がかけられました。1年間で最高10万元まで*となったのです。この影響で、頻繁に海外旅行をする層は、旅行先での消費額に慎重さが生まれています。
また、困っているのは訪日中国人観光客たちだけではありません。日本における現金引き出し制限で、日本で仕入れ、中国へ商品を発送している「代理購入事業」を行う在日中国人たちにも影響が及んでいます。円が引き出せないため、元で決済できる店や、デビットカードやモバイル決済などの現金以外の決済手段が好まれるようになっています。
*やまぎんアジアニュース
https://www.yamaguchibank.co.jp/portal/special/asia/2015/qingdao_04.pdf
まとめ
元ベースで見ると、単純には「爆買い終息」とはいえない事実があります。訪日中国人たちは増加し続けており、販売のチャンスは決して失われてはいないのです。
しかしながら、訪日中国人と在日中国人を取り巻く環境は、大きく変化しています。日本企業は、このような環境の変化の事実を正確にとらえ、それに見合った対策を行っていく必要があります。